「新約聖書」改訂新版(岩波訳2023)では、体が付随になった人に向かって宣言する主イエスの言葉を現在完了形で忠実に訳している。「人よ、あなたの(もろもろの)罪は、あなたには(もう)赦されている」(20節)当時、重病人や生まれつき体が不自由な障碍者は、本人か先祖等の罪の結果と見られる傾向があった。主イエスの現在完了形での「赦し」は、神からの天罰を受けているとされ、苦しめられていた人を解放する救いの宣言であった。・・・結核、脊椎カリエス、心臓発作、帯状疱疹、直腸癌、パーキンソン病など度重なる病と闘いながら生涯祈りの中で文学を紡ぎだした三浦綾子。彼女の代表作「氷点」は発表されて以来何度もドラマ化や映画化もされている。この物語のテーマになっているのは、誰もが生まれながらにして宿っている人間の「罪」という問題だ。作品の中で絶望感に襲われて書いた登場人物の言葉がある。「けれども、今、『ゆるし』がほしいのです。おとうさまに、おかあさまに、世界のすべての人々に。私の血の中を流れる罪を、ハッキリと『ゆるす』と言ってくれる権威あるものがほしいのです。」(三浦綾子『氷点』より)作者によれば、人間の救いは最も深いところで「自分は生きていてもよいのだ」、という現在完了形の「赦し」、そこから得られる希望をキリスト教信仰を通して伝えているのかもしれない。われらも今、神に赦され生かされている。(2024.9.22)